雨音を聞きながら

愁


 バイトに行くたびにヨロヨロ.何だろう,とてもつまらないことのために足掻いている.風邪のような症状はほぼ良くなったけれど相変わらず足元はフラフラ,頭はクラクラ.
 何だろう,もらったドーナツを食べながら考えた.「またドーナツ」と言った自分を思い出す.昨日も同じようにほかの同僚からドーナツをもらったのだ.「何かをおごられるのは苦手」と言ったことも思い出す.言わなければ良かったのにとまた思う.黙っている代わりにたくさんのため息をついたことを思い出す.言えば後悔,言わなければ嘆息,同じじゃないか.馬鹿らしい.でも,同じならば言わないほうがアドバンテージがある.いつもの打算.ドーナツはおいしかった.打算なしに言わなければ良かった.馬鹿らしい.
 鬱陶しくて無視した子供の声,同じ状況.子供時代に弟の友達に泣かされたこと.変わってない,何にも.昔からこんなことを考えてきたわけではない.でも,変わっていない.いやな奴だ.
 昨日,寝る前に考えたこと.無限の水深がある海で何かを探ろうとして,短い棒でかき回しても長い棒を伸ばしてもそう違うものは得られない.誰かを浅知恵と罵る自称知恵者は一体どう違うのか?何かを知っていることで優越感は持たないほうが良い.むしろ,そんなことは知らない方が良いのかもしれない.その棒は単に長くて邪魔なゴミかもしれない.
 「仮面をかぶらないと」と言う同年代の上役.私は今まで仮面などかぶったことはないのかもしれない.そう思うなら,きっとそうなのだろう,きっと幸福だったのだと思う.今は仮面をかぶろうとして必死の形相,歪んだ素顔がよく見える.仮面を被れたとしても,隠しきれない隙間から覗くその素顔.
 しとしとと雨音が聞こえてくる.それが「雨が降る」あのイメージを思い出させる.何が起きても,何が起きなくても,ただ,気がつくと雨が降っている感覚.ドーナツをもらっても,子供が鬱陶しくても,眠れない夜も,何かを言われても,ただ,雨が降っている.いつも降っている.目の前の現象が誰かの意思によるものでも,偶然でも神の意思でも,何らかの意味があるとしても,それはただ自然なこと,雨が降るように.でも,雨降りなら受け入れられる?許せる?どうだろう,私はわがままな人間だ.でも,今日も私には関係なく,雨は降り続ける.