飯田線ショートトリップ

@為栗駅


飯田線と私

 友人から買い取った青春18きっぷ,どうせなら有意義に使おうと思い,久しぶりに飯田線各駅停車に乗ってみることにした.飯田線東海道本線豊橋駅を起点に新城市を中心とする奥三河,現在は浜松市の一角になっている北遠,飯田・駒ヶ根伊那市を中心とする伊那谷を経由して中央本線辰野駅に至る延長200km弱・94駅(起終点含む)を擁する長大地方交通線である.また,南部では豊川や天竜川の渓谷に寄り添い,北部では木曽・赤石山脈に抱かれた自然豊かなローカル線として有名である.私はこの路線が好きで豊橋に来たと言っても過言でなく,長野の実家に帰省するときはいつも片道6時間かかる飯田線普通電車を利用していた.しかし,その所要時間故に最近は名古屋経由で中央西線の特急電車を利用することが多くなり,さらに乗用車に乗るようになってからは鉄道自体がご無沙汰になってしまった.そこで,夏休みの最後の思い出にでもと,このショートトリップに出ることにした.

寝坊

 さて28日当日,目覚めたのが11時前.10時43分豊橋天竜峡行き普通電車で天竜峡駅まで行こうと思っていたのだが,予定変更,13時43分豊橋発岡谷行き普通電車に乗ることにした.インターネットで調べてみると為栗駅で上り電車に乗り換えて折り返せば19時54分には豊橋駅に戻れることがわかり,とりあえず為栗まで行ってみることにした.発車10分ほど前に豊橋駅2番線に行くと,すでに119系4両編成が入線しており,半分くらいのボックスが埋まっていた.車両の回送を兼ねているらしく,天竜峡で後方の2両は切り離されるのだが,そのおかげでボックスを一つ占拠して快適な旅行ができるので以前から重宝している.119系電車をはじめとする国鉄型は無骨で遅く,乗り心地も決して良くはないのだろうけど,新型電車と違って非常に落ち着き,何だか我が家のような感じがするので好きだ.JR東海では313系電車を大量増備の上で各線に投入するとのことだが,いつまでこのボックスで旅ができるのだろう.などと考えつつ,靴を脱いで足を投げ出して発車を待つ.

豊橋三河川合

 ほどほどの乗客を乗せて定刻に豊橋発,市内の2駅は通過,小坂井,牛久保の駅で少しずつ乗客を降ろし,豊川駅で降車以上の乗車を受け入れ,奥三河に向けて出発する.三河一宮で若干の降車があったが,これ以降は新城まで大きな動きはない.豊橋市内で渡河して以来初めて豊川を望むのは江島駅.東上付近ではR151に沿って水田の中をカーブを描きながらゆるゆると進む.野田城を過ぎると車窓には家々が立ち並ぶようになり,市民病院を過ぎるとまもなく新城着,そこそこの降車があるようだ.
 新城では列車交換のために長めの停車,その間に若干だが新たな乗客を迎える.上り列車が到着するとまもなく出発.東新町で多少の乗降があり,三河東郷を過ぎるとひっきりなしに車が流れているR151と並行,大海で名物の大カーブを車輪を軋ませて通過し,寒狭川を渡り長篠城を過ぎると旧鳳来町役場の最寄駅であり鳳来寺参拝の下車駅でもある本長篠に到着.
 少し乗客を減らし,本長篠を出発.山間を分け入り,八名郡東三河・豊川支流朝倉川以北の豊川・宇連川左岸にかつて存在した郡)の経済の中心地・三河大野でほどほどに乗客を乗せた115系3連と交換する.東三河では著名な湯谷温泉では思ったほど乗降はなく,岩を河床に敷き詰めたような風景から板敷川あるいは鳳来峡とよばれる宇連川の渓谷を眺めつつ三河槙原柿平を通過する.何とも落ちつく故郷のような区間である.やがて到着する三河川合東三河の水瓶・宇連ダム建設のために拡張された広い構内を持ち.乳岩観光の拠点にもなっている.川合は長篠,大野とともに旧鳳来町の主要な地区の一つだが,乗降はそれほど多くはない.

三河川合〜大嵐

 三河川合を出発するとトンネルや橋梁でR151と交差しつつ勾配を登り,その頂点が豊川水系天竜川水系分水嶺池場駅になっている.池場坂を惰性で下っていくと東栄町の玄関口・東栄.駅を出て最初の三遠トンネルで静岡県浜松市佐久間町に入り,さらに下っていくと集落に入り出馬および上市場の駅を通過する.木材工場が多く見られる大きな集落まで来ると浦川.大千瀬川を渡りトンネルくぐり,早瀬,下川合の駅を通過.大千瀬川の本流・天竜川が運ぶ大量の土砂がつくったと思われる広大な河原を眺めつつ,飯田線中部区間の中心駅である中部天竜に到着,多少の乗降あり.この旧佐久間町内の区間が,飯田線の中でもおとぎの国的な印象を受け,何とも不思議だがとてもその感じがとても好きだ.
 中部天竜を出るとまもなく天竜川を渡るが,この橋梁からは佐久間ダムの水が放流される佐久間発電所が一望できる.旧佐久間町役場の最寄駅である佐久間駅を通過,街が尽きるとまもなく飯田線第2位の延長を持つ峰トンネルに入る.ここからは佐久間ダムに沈んだ旧線に代わり水窪川に沿って建設された新線である.峰トンネルを出ると旧水窪町域の相月に入る.ここから水窪川,R152と並行するが,中央構造線沿線の脆い地盤が多い地域を通過するためトンネルの掘削が困難であり,城西を過ぎたところで「渡らずの鉄橋」「S字橋」などの異名を持つ橋梁で水窪川上を通過する.向市場を過ぎると水窪川の対岸の山腹に水窪の大きな集落が広がり,まもなく水窪着.大きな荷物を持った郵便局の方の乗車など多少の乗降が見られた.大きく左カーブを切って飯田線最長の大原トンネルに入り,それを出ると大嵐駅.この駅は水窪町にありながら天竜川対岸で愛知県の旧富山村(現・豊根村)の玄関口であり,駅前の駐車場には何台も車が停められている.実際,山の中の小駅ながら,先ほどの郵便局の方の下車を始めとして数人の乗降があった.

大嵐〜為栗

 対向列車と交換して大嵐を出発,ここから旧線に復帰して天竜川の渓谷に沿って北上する.次の小和田.今朝の新聞(中日新聞18年8月31日朝刊の35面「コイズミを語る」)に,小和田にお住まいの方と水窪郵便局の方のインタビューが掲載されていた.この駅は鉄道以外では徒歩でしか到達できない秘境駅であり,郵便は富山地区のように飯田線経由でなされる.大都市圏に電力を供給するために建設された佐久間ダムの湖水がこのような秘境駅を仕立てたらしいが,改めて都市と地方の関係を考えさせされる.さて,この駅は三遠信の国境でもあり,この大嵐〜小和田間は飯田線三河川合天竜峡の前身・三信鉄道の手で南北から延びてきた線路がつながった飯田線最後の開通区間でもある.実は,以前にも全く同じ旅程で為栗まで行ったことがあったため,今回は小和田で降りてみようかという欲求に駆られたが,2時間近くもこの秘境駅で過ごすのはどうかと思い,中止.一人の乗車を乗せて,北上.
 長野県に入ると最初の駅が中井侍天竜川まで続く急斜面に茶畑が広がり,シーズンには茶葉の収穫シーンが長野県ローカルのニュースになっていたことを思い出す.トンネルや鉄橋をやり過ごし,次は伊那小沢.長野県内で最も早咲きのコヒガンザクラで有名で,やはりローカルのニュースになるのでなかなか有名だ.いつかは立ち寄ってみたい鴬巣を通過すると,放棄された鉄橋など旧線の遺構を眺めつつ新線を走り,スラブ軌道の藤沢トンネルを過ぎると天龍村の中心・平岡.水窪以来の大きな地区であり,山腹に家並みが広がっている.トンネルを出て遠山郷から流れてくる遠山川を渡る.南アルプス中央構造線の脆い谷の土砂を集めてくるため天竜川の平岡ダム湖に合流する直前では山間にもかかわらず河原が広く,堆砂が多いことを想像させる.平岡ダムがつくる羽衣崎とよばれる美しい水際を眺めてさらに進むと為栗.山間の特に何もない駅だが何となく好きな駅だ.ここで私は電車を降りた.

復路

 10分ほど駅の周囲を撮影して,やってきた2両編成の上り電車に乗り込む.平岡で若干の乗車があったがかなりの乗客を減らし,国境地域を通過して水窪に着くとさらに下車がみられた.中部天竜で若干の乗車があるが,2両編成でも空きのボックスがままある状況.浦川で下り列車と交換し,県境を越えて愛知県に入ったあたりで完全に暗くなる.本長篠以南で少しずつ乗客を乗せ,新城以南でボックスは全て埋まり,各々に2人以上座っている.豊川で若干乗客を減らし,豊橋着が19時54分.目的通り,何もしないまったりした時間が過ごせて良かった.