買い物

 金曜日のお昼過ぎ,思いつきでバスに飛び乗る.最前列に陣取り,街や人を眺めながらじっくり進んでいく.車で行くか迷ったが,たまにこんな選択も楽しい.目的地は街中,久しぶりにゆっくり買い物をしよう.
 バスを降りて大通りを歩き,まずは書道用具店で半紙と墨を購入.合計10140円,以前たなぼた的に手に入れた一万円をここで使い切ると決めていたのだ.ほかにも面白そうなものがたくさんあったので一回りしてみるが,これ以上は今の私には勿体ないように思えたので買った品物を包んでもらって店を出る.電停を見ると「電車が来ます」という表示が光っていたが,天気もよいので歩くことにしよう.新旧の建物の間を日差しをよけて歩いていく.街中,うろうろしてみると絵になる場面がとても多い.カメラを持ってくればよかったなどと思っていると次の目的地に到着.
 この本屋さんに来るとつい買い込んでしまうのが困りものだが,今日もそれにもれず,新書3冊と単行本1冊を購入.購入といっても大学生協へ一度まわしてもらってから購入という手間を踏むので(生協で買えば1割引),読むことができるのは来週明けだ.少しでも安くするために,ここは辛抱.でも,待ち遠しいという感覚も悪くはない.
 本屋を出て駅前に行くと,何かやっているらしい.どうやらテレビ番組の収録のようで,どうやら所さんのダーツの旅がこの街にやってきたようだ.もっとも,何か小話はありませんかというマイク放送をしている収録車の周りには人っ子一人いなかったが.このような企画は田舎に比べて都市部ではやりにくそうだ.そういう私も素通りして,駅ビルへ.
 今度はいつもの洋服屋さんで秋物を物色.しかし,夏や冬と違って秋はなんとなく難しい.それほどぴんとくるものがなかったので切れそうになっているベルトの代替品と夏物最終処分コーナーにおいてあったシンプルな半袖を購入,5000円ちょうどだった.スタンプ倍押しということで,あと3つでいっぱいというところまでポイントカードがたまった.カードの有効期限は今年末,それまでに3つ分は買わされるんだろうな,まあいっか.それはそれで,良し.
 さらに,同じフロアにある無印へ.本当は書道用具を入れられるような箱を買おうと思っていたのだが,なかなかよいものが見つからない.バスの時間が近かったのでそれは次回にして,前から欲しかった長い枕(抱き枕の代用)を買うことを思いつく.適当なものが見つかったので,カバーとあわせて3500円で購入.
 1階のバス乗り場へ降りていくと,すでに低床車がドアを開けて待っていた.今度は入り口に比べて何段か高い後部の座席に乗り込む.枕が大きくて座面が狭いが,普段は原付なので文句はない.10人程度の乗客を乗せて出発.駅前大通りでは「ストップ・ザ・交通事故」という標語を手にして交通安全をPRしていた.反対側の窓越しに眺めると50人はいただろうか,いろいろな人がいて面白かった.跨線橋の道端にカタツムリの殻が落ちていたり,信号を渡る子供の疾走がどこまで続くのかを見たり,狭い道幅いっぱいまで寄って進むバスを尻目に原付が拡幅工事中の路肩を軽快に走り抜けたり・・・普段は見えないものが見えるのはとても楽しい.でも,それらは見えないのでなくて見ていないだけなのだ.意識の,問題.それだけでまったく違った世界で生きることができる.何だか全てを許せそうな気分になった.往復でバス賃860円を回数券で支払う,何てお値打ちな異世界体験.何も,わざわざ旅に出る必要はない.自分探しなど,本当はとても簡単なこと.そういう私は皆目わからないけれど,きっと単純なことなのだと思う,うん.