『悪について』

 先月初めから読み始めたものの最近は放置気味だった『悪について』(中島義道著,岩波新書 )をようやく読み終えた.読み始めのときに思ったとおり,私にとっての「今年の一冊」といえるものであった.感想としては先日の日記が図らずとも近いものになっているので省略するが,「根本悪」について追記.「根本悪」とは,道徳法則を尊敬しながらも道徳的に悪い選択をしてしまう性向のことだという.そして,これを除くことは人間の本質が進歩にある以上は以上不可能であり忌むべき事実だが,煩悩即菩提,この性向が道徳者であろうとするものに人間としての命を吹き込む.何にももたれ掛かることなく求め続ける態度に道徳性が生じるといえる.
 このように考えれば,苦しみに意味を与えることができるかもしれない.でも,根本悪を始めとする「悪」つまり反道徳的な意志は,本当に「悪い」ことなのか,そんなことを定める必要はあったのかという気分もある.社会人は非適法的行為は結局は自己に不利であり,利益のために適法的行為を為そうとする.そして,アダム・スミスの言うように個々の経済主体が自己の利益の最大化を図ることが全体の最善に至るための条件であるならば,適法的行為のみを為せばよいのであって,道徳的である必要はなさそうだ.ただ,ここまで考えて思ったのだが,やはり,道徳的でありたいと思う気持ち〜良心が紛れもなく存在する.やはり,人間は苦しまざるを得ないようだ.